大判例

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東京高等裁判所 平成元年(ネ)1019号 判決

一審原告

角谷信行

外六〇四名

一審原告ら及び一審原告訴訟承継人ら訴訟代理人弁護士

森川金寿

高橋修

四位直毅

榎本信行

島林樹

大田雍也

盛岡暉道

岩崎修

古澤清伸

成瀬聡

関島保雄

大山美智子

佐藤和利

葛西清重

肥沼隆男

吉田健一

山本哲子

山本英司

森田太三

吉田栄士

中杉喜代司

井口克彦

山崎泉

池末彰郎

岸本努

大野隆司

中村秀示

勝部浜子

小林政秀

佐々木良博

村田光男

岡田和樹

上野賢太郎

山本政明

一審原告ら訴訟復代理人弁護士

福田護

橋本昭夫

川本藏石

松井忠義

国府泰道

田中利美

野村和造

一審原告後藤充及び一審原告訴訟承継人ら訴訟代理人弁護士

森川文人

一審原告訴訟承継人ら訴訟代理人弁護士

須合勝博

木村康定

高木一彦

水口真寿美

佐川京子

小口克己

一審被告

右代表者法務大臣

三ケ月章

右訴訟代理人弁護士

藤堂裕

右指定代理人

野本昌城

外一六名

主文

一  原判決主文第一項中、一審原告ら(ただし、別紙転居・死亡一審原告目録一記載の各一審原告を除く。)の昭和六三年六月二四日以降の慰謝料等損害金の支払請求にかかる訴えを却下した部分、原判決主文第二項並びに原判決主文第三項中、一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎を除く一審原告らのその余の慰謝料等損害金の支払請求を棄却した部分を、次のとおり変更する。

1  一審原告ら(ただし、別紙転居・死亡一審原告目録一記載の各一審原告を除く。)の慰謝料等損害金請求のうち平成六年一月一三日以降に生ずべき損害金の支払請求にかかる訴えを却下する。

2  一審被告は、別紙損害金目録記載の各一審原告に対し、同目録記載の各金員及びこのうち昭和五七年一〇月二〇日までに生じた金員の合計額に対しては同月二一日から、同月二一日以降平成六年一月一二日までに生じた各月毎の金員に対してはそれぞれの発生の月の翌月一日から、各支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  別紙損害金目録記載の各一審原告の平成六年一月一二日までの慰謝料等損害金の支払請求のうち、その余の請求をいずれも棄却する。

二  一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎の本件控訴並びに一審原告角谷信行、同浅井宣也、同小林夕美子、同小川重子、同高倉節、同関根良長、同隅博子、同原島ヨシ、同後藤榮子、同大野芳一、同赤松正一、同小林由紀子、同石井治雄、同野田一也、同田島紀美子、同吉岡悦子、同小野関信、同仲村洋子、及び同宮橋かねの各飛行等差止請求にかかる本件控訴及び別紙電気料相当損害金請求債権目録記載の一審原告らの同請求にかかる本件控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎に生じた費用は同人らの各自弁、一審被告に生じた費用の五九九分の一ずつを右各一審原告の各負担とし、その余の一審原告らに生じた費用はこれを三分し、その一を右一審原告らの各自弁、その二を一審被告の負担とし、一審被告に生じたその余の費用は一審被告の自弁とする。

四  この判決の第一項2は、本判決が一審被告に送達された日から一四日を経過した時は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

(一審原告らの控訴の趣旨)

一  原判決中一審原告ら敗訴部分を取り消し、これを次のとおり変更する。

1 差止請求(一審原告角谷信行〔番号一〕、同浅井宣也〔同五〕、同福本道夫〔同一三〕、同小林夕美子〔同六八〕、同小川重子〔同一〇五〕、同高倉節〔同一二四〕、同関根良長〔同一四四〕、同隅博子〔同一六〇〕、同原島ヨシ〔同一九三〕、同後藤榮子〔同二〇八〕、同大野芳一〔同二一三〕、同赤松正一〔同二二〇〕、同小林由紀子〔同二二三〕、同石井治雄〔同二四五〕、同野田一也〔同二五二〕、同田島紀美子〔同二七四〕、同吉岡悦子〔同三四八〕、同小野関信〔同三六九〕、同仲村洋子〔同五二六〕、同宮橋かね〔同五九三〕のみ。)

(一) (主位的請求)

一審被告は、アメリカ合衆国軍隊をして、毎日午後九時から翌日午前七時までの間、在日米軍横田飛行場を一切の航空機の離着陸に使用させてはならず、かつ、同飛行場から一審原告ら(一審原告らのうち前記の角谷信行らのみ)の居住地にエンジンテスト音、航空機誘導音等五五ホン以上の騒音を到達させてはならない。

(二) (予備的請求)

一審被告は、一審原告ら(一審原告らのうち前記の角谷信行らのみ)に対し、毎日午後九時から翌日午前七時までの間、右一審原告ら居住家屋内に、横田飛行場から五五デシベル(C)を超えるエンジンテスト音及び航空機誘導音並びに同飛行場に離着陸する航空機から発する五〇デシベル(A)を超える飛行音を到達させてはならない。

2 一審被告は、次の各金員を支払え。

(一) 一審原告らに対し、各金一二七万円及びこれに対する昭和五七年一〇月二一日から支払い済まで年五分の割合による金員。

(二) 一審原告ら(ただし、別紙転居・死亡一審原告目録一記載の各一審原告を除く。)に対し昭和五七年一〇月二一日から前記主位的差止請求の航空機の離着陸及び騒音がなくなり、かつ、その余の時間帯において同飛行場の使用により、一審原告らの居住地域に六〇ホンを超える一切の航空機騒音が到達しなくなるまで(ただし、別紙転居・死亡一審原告目録二記載の各一審原告らについては、同目録騒音地域居住期間欄記載の各日まで)、一か月金二万円の割合による金員及びこれに対する当該月の翌月一日から支払い済まで年五分の割合による金員。

3 一審被告は、別紙電気料相当損害金請求債権目録記載の一審原告らに対し、同目録(一)欄記載の金員及びこれに対する昭和六三年六月一日から支払い済まで年五分の割合による金員並びに、右一審原告ら(ただし、一審原告濱野マス〔番号四三〕、同山田トキ〔同五六〕、同間中仁三〔同二三七〕、同金沢貫治〔同三六〇〕、同小野関五郎〔同三六七〕及び同山木宏〔同四三六〕を除く。)に対し、前記主位的差止請求記載の航空機の離着陸及び騒音がなくなり、かつ、その余の時間帯において同飛行場の使用により右一審原告らの居住地に六〇ホンを超える一切の航空機騒音が到達しなくなるまで、それぞれ平成元年以降毎年五月末日限り一年につき同目録(二)欄記載の割合による金員及びこれに対する当該年の六月一日以降支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。

三  金銭の支払いにつき仮執行宣言。

(一審被告の答弁)

控訴棄却の判決を求める。

(一審被告の控訴の趣旨)

一  原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

二  右取消部分につき、一審原告らの訴えを却下する(第一次的)、または請求を棄却する(第二次的)。

三  訴訟費用は、第一、二審とも一審原告らの負担とする。

(一審原告らの答弁)

控訴棄却の判決を求める。

第二 当事者の主張及び証拠

当事者双方の主張は、一審原告らにおいて、「控訴の趣旨一、2、(一)で一審原告各自が支払いを求める一二七万円は、それぞれ昭和五七年一〇月二〇日までに生じた慰謝料等の損害賠償請求で、その内訳は、慰謝料が一〇〇万円、弁護士費用が二七万円であり、同一、2、(二)で一審原告各自が支払いを求める昭和五七年一〇月二一日以降の毎月二万円の割合による金員は、それぞれ同日以降の一か月当たりの慰謝料等の損害賠償請求で、その内訳は、慰謝料が一万八〇〇〇円、弁護士費用が二〇〇〇円である(いずれも、当審において請求を減縮した。)。」と述べ、当事者双方が別添のそれぞれの当審における各最終準備書面のとおり当審で主張した〈。以下省略〉

理由

本論に入る前に、一審原告らのうち権利の承継があった者について判断しておく。

一審原告らのうち、別紙承継関係一覧表記載の各被承継人らが同表死亡年月日欄記載の日にそれぞれ死亡したことは争いがない。そして、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、相続人間の協議に基づき、同一覧表の各承継人らが、本件訴訟において請求している各被承継人の権利を承継したことを認めることができる。

本論に入る。

第一飛行等差止請求について(一審原告らの主張に対する判断)

我が国における米軍による施設使用の法的関係は、安保条約及び地位協定に基づくものである。すなわち、安保条約六条は「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」と定めており、これを受けて、地位協定二条一項(a)は「合衆国は、相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される。」と定めている。そして、これらの条項に基づいてアメリカ合衆国に使用が許される施設等の管理に関しては、地位協定三条一項が「合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる。」と定めている。さらに、航空特例法には、航空法第六章の規定のうち、運輸大臣の航空交通の指示(同法九六条)、飛行計画及びその承認(同法九七条)、到着の通知(同法九八条)を除くその余の事項など米軍機の運行に関する航空法の適用除外が定められているほか、地位協定六条一項に基づく日米合同委員会において、航空交通管制業務も米軍が行う旨の合意がなされていることが認められる(弁論の全趣旨)。横田飛行場も我が国における米軍の施設として使用が許されているのであるから、右のとおりの使用関係にある。さらに、横田飛行場に関する航空管制業務は米軍が行うものとされ、同飛行場内の離着陸管制、同飛行場の管制圏及び進入管制区内の航行については、米軍機のみならず我が国の民間機をも含めて全て米軍がこれを管制し、これから離脱したり、これに進入したりする場合には、運輸省の航空管制と管制の引継ぎを行うものとされていることが認められる(弁論の全趣旨)。以上のことからすると、横田飛行場は米軍の使用する施設としてアメリカ合衆国に提供されてその管理、使用に委ねられ、また、同飛行場に関する管制業務の権限も米軍に付与されたことにより、横田飛行場の管理、運営はもっぱらアメリカ合衆国(具体的には米軍)が行っているものというべきであって、一審被告である国はこれを管理、運営する権限を有しないものと解すべきである。

そして、後に判断するとおり、飛行騒音等を発生させて一審原告らに直接被害を生じさせているのは一審被告ではなく米軍であるから、一審被告が妨害状態をひき起こしていることを前提とする一審原告らの主張はそれ自体失当というほかない。一審原告らは、一審被告が米軍に対して横田飛行場を提供していること自体や、その拡張、機能の強化に種々協力してきたこと、着陸料・課徴金・租税の免除、公共役務利用の優先権の付与等、米軍に種々の便益や特権を供与してきたこと、一審被告が米軍の横田飛行場への出入りや飛行に積極的に協力してきたことなどをもって、一審被告が横田飛行場における航空機の運行を支配し、一審原告らに対する侵害状態を生ぜしめているとし、あるいは共同不法行為に当たるとも主張する。しかしながら、そのことが損害賠償の請求の理由となりうることは別として、差止請求の根拠になるとは認め難い。

次に、一審原告らは、一審被告が一審原告らに対する妨害を防止し得る立場にあることをも差止請求の根拠とするが、すでに述べたように、一審被告とアメリカ合衆国(米軍)との間の横田飛行場の使用の法律関係は条約に基づくものであるから、一審被告は、条約又はこれに基づく国内法令に特段の定めのない限り、米軍の管理運営の権限を制約し得るものではないところ、関係条約及び国内法令に右のような特段の定めは見当たらない。したがって、一審原告らの差止請求は、一審被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求することに変わりはなく、主張自体失当である。

さらに、一審原告らは、予備的差止請求に関して、一審被告は航空機の運行による騒音等の被害を防止するために独自に対策を採り得ることを差止請求の根拠として主張するが、一審原告らの主張する被害を直接生じさせているのが米軍であって一審被告でないこと、かつ一審被告には横田飛行場に対する米軍の管理運営の権限を制約する根拠がないことはすでに述べたとおりであり、一審原告らの主張する被害を防止ないし軽減するための間接的な方策(例えば防音設備の設置など)を独自に採り得るからといって、このことが差止請求の根拠となると解することはできない。環境整備法にも差止請求を可能とするような規定はない。同法に基づいて一審被告が周辺住民のために講ずべき対策は、一審被告の不法行為責任があることを前提とするものではなく、これとは別個の国の責務に基づいてなされるものであると解される。

以上のとおりであって、一審原告らの主位的及び予備的差止請求は、いずれも主張自体失当と判断すべきものである(なお、差止請求は給付請求の一種であるから、被告適格を問題にする余地はないし、請求の趣旨自体は不特定とまではいえない。また、すでに判示したような横田飛行場の特殊な使用関係からいって、民事訴訟の対象とする以外の方法を問題にする余地もないと考えられる。さらに、いわゆる統治行為の法理が適用される余地がないことは、後の第二にも判示するとおりである。したがって、本件差止請求が不適法な訴えということはできない。)。しかしながら、一審被告は原判決中差止請求をいずれも却下した部分については不服を申し立てていない(むしろ、当審においても差止請求が不適法であることを強調する。)から、原判決の却下部分を取り消して請求棄却の判決をすることは不利益変更禁止の原則に反する結果となる。よって、この点については、一審原告らの控訴を棄却するに止める(なお、以上については、最高裁平成五年二月二五日第一小法廷判決〔昭和六三年(オ)第六一一号ないし第六一四号事件。いわゆる第一、二次横田基地騒音公害訴訟事件〕参照。)。

第二過去の損害賠償請求の適法性について(一審被告の主張に対する判断)

この点についての当裁判所の判断は、次に付加するほかは、原判決の理由説示と同じであるからこれを引用する(原判決理由第二〔一九頁〈判タ七〇五号二一二頁四段目一五行目〉から二五頁〈二一四頁一段目二行目〉まで〕。ただし、当審の口頭弁論終結の日は平成六年一月一二日であるから、この点に関する原判決書の記載はこのとおりに読み換えるものとする。なお、前掲最高裁判決参照。)。

一原判決書二一頁九行目〈判タ七〇五号二一三頁二段目一三行目〉の「このことから直ちに」を「これは米軍が横田飛行場を使用して航空機を運行するに当たって周辺住民の被害に対する配慮に欠けるものがあったとか、一審被告の被害防止対策が十分でなかったことが判断されるだけである。米軍が横田飛行場を自由に使用できるということが、周辺住民にどんな被害を与えてもよいということであるはずはない。一審被告も、米軍の使用のために提供したからといって、他人ごとであるといって放置してよいというものでないことは多言を費やすまでもない。こうした点について裁判所が当否を判断したからといってこれが」に改める。

二原判決書二三頁〈判タ七〇五号二一三頁三段目から四段目〉四行目、六行目、九行目、一一行目、一二行目及び一三行目の各「二五〇万円」をいずれも「一〇〇万円」に、四行目及び六行目の「三万円」をいずれも「一万八〇〇〇円」にそれぞれ改める。

第三過去の損害賠償請求の当否について

一適用法令について、一審原告らが請求の根拠として主張する人格権、環境権について、及び消滅時効についての当裁判所の判断は、次に付加するほかは、原判決の理由説示と同じであるからこれを引用する(原判決理由第三ないし第五〔二六頁〈判タ七〇五号二一四頁一段目三行目〉から四〇頁〈二一六頁三段目八行目〉まで〕)。

1  原判決書二六頁一〇行目から一一行目にかけての「含み、」から一二行目の「解すべきである」〈判タ七〇五号二一四頁一段目二〇行目から二三行目〉までを「含み、当該物件の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によって危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右物件の設置管理には瑕疵があるというを妨げず、したがって、右物件の設置・管理者において、そのような危険性があるにもかかわらず、これにつき特段の措置を講ずることなく、また、適切な制限を加えないままこれを利用に供し、その結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは、それが右設置・管理者の予測し得ない事由によるものでない限り、同条の規定による責任を免れることができないと解するのが相当である」に改め、一二行目の「最高裁」の前に「前記最高裁判決及び」を加える。

2  原判決書二七頁〈判タ七〇五号二一四頁二段目一四行目〉一二行目の「訴えの適法性」を「訴え」に、末行の「本件は、」を「本件においては、一審被告が横田飛行場を米軍の使用に供したことにつき、利益衡量の結果として違法性を肯定することができる限り、横田飛行場の設置、管理に瑕疵があるものということができるのであって、」に、二八頁九行目〈判タ七〇五号二一四頁二段目末行〉の「考えられる」から二九頁六行目末尾〈三段目一九行目〉までを「考えられ、本件においてあえて民特法一条の適用を問題にする必要はないと解される(すでに述べたように、民特法二条の適用による設置、管理の瑕疵を問題とする場合には、個々の侵害行為につき行為者を特定して故意、過失を問題にする必要はなく、侵害行為及びこれによる被害の全体を通じて、利益衡量の結果違法性を肯定することができれば足りるのである。)。」に、それぞれ改める。

3  原判決書三七頁五行目〈判タ七〇五号二一五頁四段目二二行目〉の「起算点は、」の次に「遅くとも」を加える。

4  原判決書四〇頁三行目〈判タ七〇五号二一六頁二段目三〇行目〉の「さらに、」から四行目〈三段目一行目〉末尾までを「さらに、一審原告らは、消滅時効の制度の趣旨、一審原告らの被害の重大性、一審被告の侵害行為の悪質性のほか、本件訴訟の困難性や本件訴訟に至る経過を挙げて一審原告らが権利の上に眠るものではないことを強調し、また、公共性はむしろ被害の安全救済の必要性を根拠付けるものであること等を理由に、一審被告の消滅時効の援用は権利の濫用に当たると主張する。しかしながら、右の主張のうち、本件訴訟の困難性をいう点はある程度理解できるが(法律上の要件との関連でいえば、加害者を知ることに関する議論ということになろう。)、それにしても、すでに判示したように、昭和五一年四月には第一次訴訟を、同五二年一一月には第二次訴訟を提起していることからすると、一審原告らがその時点でなお訴え提起の方法を採ることができなかったとまでは考え難い。一審原告らの主張するその余の点は、本件訴訟においてまさに重要な争点となっているところであって、この点について結論として一部一審原告らの主張が肯認される部分があるにしても、だからといって一審被告の消滅時効の援用を権利の濫用と認めることはできない。一審原告らの主張は、いずれも採用することができない。」に改める。

二侵害行為及びこれによる被害についての当裁判所の判断は、次に付加するほかは、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する(原判決理由第六、第七〔四一頁〈判タ七〇五号二一六頁三段目九行目〉から一三五頁〈二三二頁四段目一二行目〉まで〕)。

1  原判決書四一頁末行〈判タ七〇五号二一六頁三段目三〇行目〉の「侵害」を「違法な侵害」に改める。

2  原判決書四四頁末行〈判タ七〇五号二一七頁二段目六行目〉の冒頭に「別紙一審原告ら移動一覧表(一審原告ら主張分及び一審被告主張分)のとおり一審原告らの住居の移動があったことは当事者間に争いがない。この事実に加えて、」を、同行の「原告小林美恵子」の前に「〈書証番号略〉、」をそれぞれ加え、四五頁表三行目の「及び同松本近子」を「、同松本近子、同福井君代、同敦賀紀代子、同赤松正一、同松井仁及び同小林夕美子(福井君代以下はいずれも当審)」に、九行目の「〈書証番号略〉」を「〈書証番号略〉」に、一〇行目の「第一ないし第四回」を「原審第一ないし第四回及び当審」にそれぞれ改める。

3  原判決書四五頁〈判タ七〇五号二一七頁二段目八行目〉一二行目の「居住関係」から四六頁一一行目〈二段目末行〉の末尾までを「居住地域は、本訴提起当時でいえば、概ね同飛行場の南側、南東側及び南西側に位置し、横田飛行場の南端から一〇〇ないし二二〇〇メートル(オーバーラン南端から六〇〇ないし二七〇〇メートル)、西端及び東端からはそれぞれ一〇〇ないし二〇〇メートルの範囲にあって、都市計画法上の用途地域としては第一種、第二種住宅専用地域、準工業地域、商業地域、市街化調整区域に指定されていることが認められる。後に示す受忍限度あるいは個別的な慰謝料額の判断に当たって考慮すべき具体的事実(居住地のW値、居住開始の時期、住宅防音工事の有無及びその時期等)、慰謝料判断の基礎となる基本額、慰謝料支払いの終期を判断するための居住期間に関する各一審原告ごとの事実の認定は、別紙損害金目録の付表に記載のとおりである(損害賠償請求につき具体的な日による終期を明示している一審原告らのうち、死亡者を除く一審原告ら(別紙「転居・死亡一審原告目録二」中死亡者を除く者)については、前掲〈書証番号略〉によると、終期以後も騒音区域内に居住し、又は終期以後に再度騒音区域に転入していることが窺われる者も二、三あるが、弁論主義の制約があるので、この事実は考慮しない。また、受忍限度の判断に当たっては、W値七五以上八〇未満の地域については、航空機騒音に係る環境基準(昭和四八年環境庁告示第一五四号)にいう類型Ⅰの地域に限って受忍限度を超えるものと判断すべきことは後に判示するとおりであるが、東京都においては、都知事の定めるところにより、都市計画法上第一種、第二種住居専用地域、住居地域及び無指定地域が類型Ⅰに当たるものとされており、同表にW値七五と記載したものはいずれもこれに当たると認めることができる。)。一審原告のうち福本道夫、同松本スエ、及び同松本件治郎の居住関係については、後に判断するとおりである。」に改める。

4  原判決書五三頁七行目〈判タ七〇五号二一八頁三段目二三行目〉及び五五頁六行目〈二一九頁一段目六行目〉の「補足」をいずれも「捕捉」に改める。

5  原判決書五六頁六行目〈判タ七〇五号二一九頁一段目三〇行目〉の次に行を改めて次のとおり加える。

「5  原審口頭弁論終結の日の翌日(昭和六三年六月二四日)以降の騒音発生状況等は次のとおりである。

〈書証番号略〉(いずれも昭島市の測定記録)によれば、昭和六三年から平成五年までの横田基地南側(測定地点は拝島第二小学校屋上)の騒音発生回数(七〇デシベル(A)以上。以下同じ。)の推移は、一日平均で昭和六三年が48.3回、平成元年が43.9回、平成二年が42.9回、平成三年が36.9回、平成四年が46.7回、平成五年(一月から一〇月まで)が45.9回となっている。このうち平成三年の回数が少ないのは、一〇月末頃から一一月一二日頃まで〇回ないし三、四回という日が続いており、滑走路の工事等の特殊な事情による影響が考えられる。また、〈書証番号略〉(いずれも東京都の測定記録)によれば、昭和六三年から平成四年までの昭島市大神町(測定地点は〈番地略〉民家先地上2.5メートル)の騒音発生回数(七〇デシベル(A)以上。以下同じ。)の推移は、昭和六三年が一二一三一回(一日平均33.1回)、平成元年が一〇八〇四回(一日平均29.8回)、平成二年が一二〇八五回(一日平均33.1回)、平成三年が一〇九一四回(一日平均29.9回)、平成四年が一三六二三回(一日平均37.2回)となっている。ここでも平成三年の回数が少ないのは、前記の事情による影響が考えられる(〈書証番号略〉)。また、昭島市による拝島第二小学校屋上での測定よりも全般的に騒音発生回数が少ないのは、先に述べたように、訓練飛行の場合航空機が大神町測定所の手前で西側に旋回してしまい、大神町測定所ではその騒音が捕捉されない等の理由によるものと考えられる。これによると、原審口頭弁論終結の後も飛行回数には大きな変動はないと認めることができ、この回数からみると、先に認定した昭和五五年ないし五九年当時の騒音発生回数と比較すると、昭和六〇年以降むしろやや増加した状態で推移していることが認められる。

なお、前掲昭島市の測定記録及び〈書証番号略〉によると、艦載機による夜間離着陸訓練の飛行経路にはいくつかのパターンがあるが、昭島市の測定地点である拝島第二小学校よりも北側で西に旋回することもあり、そのため、昭島市の測定記録でも全ての飛行騒音を捕捉しているものではないことが認められる。年間の夜間離着陸訓練の日数自体はそう多くはない(〈書証番号略〉によれば、横田飛行場では昭和五八年から開始され、昭和六三年から平成三年までの五年間でみると、年一〇日ないし一七日)とはいえ、飛行回数は多いから、昭島市の測定記録にも必ずしも捕捉されない飛行騒音があることは考慮に入れておく必要がある。

ところで、一審原告らも指摘するように、前記拝島第二小学校屋上での測定記録及び大神町での測定記録によると、横田基地の騒音発生回数は日によって大きな違いがある。拝島第二小学校屋上での測定記録を基にして、昭和六三年一月から平成五年一〇月までの間で概観すると、飛行騒音が日に一〇〇回以上ある日が毎年概ね一八、九日あり(ただし、平成三年が一〇日と少なく、平成四年が二九日と多い。)、月別にみると一、二回というのがもっとも多く(約六〇パーセントの月)、中には月七回とか八回ということもあるが、ごく例外であり、一〇〇回以上という日がない月も三四パーセントほどある。飛行騒音が五〇回以上ある日でみてみると、月九回から一三回というのが大多数であり、月二〇回とか逆に月二、三回といった極端に多い月や少ない月もあるが、例外とみてよい。騒音発生回数の少ない日は、日に一〇回前後というのが多い(中には極端に少ない日が続くこともあるが、滑走路の工事等の特殊な事情によると思われる〔〈書証番号略〉〕)。なお、土曜日、日曜日は概ね回数は少ない。大神町での測定記録の分析結果では、騒音発生の回数が一日一〇〇回以上の日は、年間一、二日という年が多く、最も多い平成四年でも一一日である。一日五〇回以上の日も、年間六〇日余りから多くて九〇日程度(平成四年)となっていて、いずれも拝島第二小学校屋上での測定結果によるよりも少なくなっている。その理由は、先に述べたところと同様と考えられる。騒音発生回数が平日に多く、土曜日、日曜日に少ないことは、拝島第二小学校屋上での測定結果から認められる傾向と同様である。なお、この期間中の騒音ピークレベルのパワー平均値は月別にみて概ね九五デシベル(A)前後、W値は八五前後である(いずれも、滑走路の補修によると考えられる理由により、飛行回数が極端に少ない月を除いて観察したものである。)。

一審原告らは、平成四年二月を例に取って、最も多い日が二一三回で、一〇〇回を超える日が七日となっているとして、騒音発生回数が多い日の被害は甚大であることを強調するが、前記測定結果を子細に検討すると、騒音発生回数が二一三回というのは昭和六三年一月から平成五年一〇月までの間で最も多い回数であるし、一〇〇回を越える日が月に七日もあるというのも、右の期間中に他にほとんど例はなく(平成二年一月、三月、平成四年一月が月に六ないし七日となっているのがこれに次ぐ数少ない例である。)、平成四年二月の例をもって全体を推し量る例とするのは相当でない。しかし、先にみたとおり、一日の平均回数をみるだけでは、騒音による侵害及びこれによる被害の実体は分かりにくく、騒音発生回数が少ない日もある一方で、平均を上回る日もかなり多いことは事実であり、このことも侵害行為の態様を検討するうえで十分考慮する必要があること自体は、一審原告らの主張するとおりである。

次に、前記拝島第二小学校屋上での測定記録により、昭和六三年一月から平成五年一〇月までの深夜早朝(二二時から七時まで)の騒音発生回数の推移をみると、一日平均で昭和六三年が2.1回、平成元年が2.4回、平成二年が2.5回、平成三年が1.8回、平成四年が1.9回、平成五年(一月から一〇月まで)が1.9回となっている。最近の平成四年と平成五年一月から一〇月までの測定結果を例に取ると、このうち早朝六時から七時までの時間帯の騒音発生回数がほぼ六〇パーセントを占めているが、二二時から六時までの時間帯でもほぼ四〇パーセントとなる。平成五年を例にとって、深夜早朝に飛行騒音が記録されている日数でみると、一月は二三日、二月は二三日、三月は二九日、四月は二四日、五月は二四日、六月は二七日、七月は二五日、八月は一九日、九月は二五日、一〇月は二八日となっている。〇時から六時という時間帯に飛行が記録された日だけでも、一月には七日、二月には九日、三月には九日、四月には一一日、五月には九日、六月には七日、七月には一三日、八月には四日、九月には一二日、一〇月には九日となっている。この傾向は他の年度でもほぼ同じである(ちなみに、平成四年と五年の騒音発生時間帯別回数の各月別状況の詳細は、本判決別紙時間帯別騒音発生状況一覧表のとおりである。他の年の時間帯別の回数は特に示さないが、ほぼ同様の状況にある。)。また、東京都の大神町での測定記録によると、同じ時間帯の騒音発生回数は、一日平均で平成二年が1.5回、平成三年が1.3回、平成四年が1.4回となっている(時間帯別年間騒音発生回数表からの計算による〔小数点二桁以降は四捨五入〕。なお、昭和六三年、平成元年については、時間帯別発生回数はグラフに表示されているのみで正確な数字の記載がないので、計算は割愛したが、傾向としては大きな差はないと認められる。)。

深夜族といわれるような人は別として、普通の生活をしている人は、二二時から七時の間に睡眠をとる者が多いであろう(人によって二二時から六時までとか、二三時から七時までとかの若干のずれはあろうが。)。この時間帯に飛行する航空機の騒音は、前記測定記録からみると、比較的騒音レベルが低い機種が多いことは窺えるとはいえ(一〇〇デシベル(A)を記録している例は少なく、八〇ないし九〇デシベル(A)台のものが多い。)、以上の数字からするとほとんど毎日か、少ない月でも三日に二日は睡眠時間中に騒音が発生している結果になり、睡眠への影響を考える上で無視できない数字である。

6  一審被告の反論に対する判断

一審被告は、各一審原告ごとに居住地が違い、それぞれの居住地に届く航空機騒音の程度も違うのであるから、各一審原告ごとに騒音の程度(W値で評価した場合の程度)を具体的に立証すべきであるとし、一審原告らの提出する騒音測定記録自体は正当であるにしても、これらはある特定の地点における測定記録にすぎないのであるから、一審原告ら各自の居住地の騒音を証明するには不十分であると主張する。確かに、上空を通過する航空機から到達する騒音量が、騒音発生源である航空機と地上の具体的な地点との距離の差に応じて、地点ごとに差があることは理論上当然であり、また、その時々の風向き等によって各地点に到達する騒音の程度には差が生ずるのも当然であろう。しかしながら、騒音発生源の音のエネルギーの総量の絶対値が小さい場合(例えば、自動車のクラクションの音やエンジン音など)には、騒音発生源との距離が違うと届く騒音の程度にも大きな差が生ずるといえるが、航空機の飛行騒音は騒音発生源の音のエネルギー量が他の騒音源とは比較にならないほど大きく、しかもかなり離れた上空から届く騒音の場合には、航空機の離着陸線の直下にある地点とそこから一〇〇ないし二〇〇メートル離れた地点との相対的な距離の差はそれほど大きくはならないから、ある程度の誤差はあるにしても、航空機の直下にある地点の騒音の程度から各地点に達する騒音の程度を推定することはそれほど困難ではないと考えられる。本件に則していえば、各一審原告の居住地の位置は判っているのであるから、限られた地点の測定記録であっても、測定地点の位置と各一審原告らの居住地との相互の位置関係及び地域ごとに到達する騒音の程度の一般的な関連性を示す資料をみることによって、各一審原告らの居住地に到達する騒音の程度を推認することはさして困難なことではない。後に述べるコンター図は、各地域に到達する騒音を例えばW値五ごとに区分して同程度の騒音が到達する地域の概括的な区分を示すものとして作成されているのであり、一審被告もこうした図面を基にして区域指定をしているのであるから、こうしたコンター図の合理性ないしその必要性は十分判っているはずである。後に述べるように、コンター図を利用することによって、具体的な騒音測定地点の騒音から各一審原告の居住地に到達する騒音の程度を認定することに特段の不合理があるとは考え難い。一審被告の主張は、一審原告らに過大な証明を求めるものであって、採用することができない(一審被告も、まさか、各一審原告らの自宅に常時精密騒音計を備えておけというのではあるまい。)。一審原告らがこのような合理的な推認の根拠とするに足りる客観的な証拠を提出している以上、一審被告としては、各一審原告らの居住地に到達する具体的な騒音の回数や程度を争うなら、信用するに足りる具体的な反証を用意すべきであるのに、一審原告らの立証態度を批判するだけで、なんら具体的な反証を提出しない。当裁判所は、一審被告が一定の測定場所で独自に騒音発生の状況を記録していることを認めているばかりか、防衛施設周辺の生活環境改善のための区域指定に際してもこの測定記録を基にしてこれを定めているというのであるし、他方、一審原告らの文書提出命令の申立てもあるので、任意にこれを提出することも勧告したのに、一審被告は、米軍機の運行状況は秘密に属するとして、測定記録の提出に応じず、測定記録を基にして整理した結果であるという資料しか提出しないのである(〈書証番号略〉)。しかし、米軍機の飛行による騒音を測定して記録することは誰にでもいつでもできることである。現に昭島市や東京都は二十数年にわたり毎日これを詳細に測定して一般に公開しているのであり、本件に証拠として提出されている。およそ秘密などとはいえるはずがない。にもかかわらず、原始資料を提出しないでおいて、結果を整理したという書証を提出しても、これを反証として採用するわけにはいかない。」

7  原判決書六〇頁一一行目〈判タ七〇五号二一九頁四段目末行〉の次に行を改めて次の通り加える。

「 一審被告は、地上音が全ての一審原告らの居住地に届くわけではないと主張し、それはそのとおりである。しかし、右の認定は別に全ての一審原告らに届くことを認定しているのではない。地上音も騒音として軽視することができないことを認定しているのであり、少なくとも一審原告らのうち横田飛行場のごく近くに居住する者に対しての侵害行為となり、したがって後の慰謝料の判断に際して考慮されるべきひとつの事情とされるものである。」

8  原判決書六一頁一一行目〈判タ七〇五号二二〇頁一段目二二行目〉の次に行を改めて次のとおり加える。

「  一審被告は、各一審原告の居住地によって暗騒音の程度は異なると主張して右認定を非難し、道路沿いの地点や鉄道沿いの地点の暗騒音が高いことを指摘する。確かに、道路沿いの地点の暗騒音が高い(五四ないし六一デシベル(A)、車輛通過時には六〇ないし68.5デシベル(A))ことや、鉄道沿いの地点では列車通過時または踏切の警告音の騒音が高い(線路のすぐ近くでは列車通過時の騒音は屋外で九二ないし九七デシベル(A)にも達することがある。)ことは、一審被告が指摘する証拠によって認めることができる。しかし、右の事実はすべての一審原告らに共通するわけではないうえ、道路沿いの地点の暗騒音といっても先に認定した飛行騒音と比較すればずっと程度は低いし、鉄道沿いの地点の前記騒音は暗騒音というよりは、列車通過時の騒音であり、常時続く暗騒音とは別のものである。道路沿いの地点の暗騒音が前記認定より高いことや鉄道沿いの地点が列車通過時に高い騒音を示すことをもって前記認定を批判する理由となるものではない。道路沿いないしは鉄道線路沿いの地点で車両、列車の通過時に騒音が高いことも飛行騒音による侵害が否定されあるいは減殺されることを意味するものではないばかりか、車両騒音や列車騒音に加えて飛行騒音にまで暴露されることを示すものであって、むしろ被害がより過重される結果となることを示すものとさえいえる。一審被告の主張は採用することができない。

さらに、一審被告は、本件で一審原告らが問題とするような騒音は、鉄道や幹線道路沿いでは珍しくない程度の騒音であり、公共性を考慮したうえでこの程度の騒音までが違法であるとされるのであれば、幹線鉄道や幹線道路の騒音も違法ということになり、明らかに不合理であるともいう。しかしながら、一審被告がここでいう騒音源というのは、例えば鉄道車両や自動車の通過音とかクラクションの音とか、あるいは踏切の警告音等であって、騒音発生源の性質からして航空機騒音とは全く異質というか、騒音源のエネルギー量を異にするものであって、比較すること自体間違っているというべきである。例えば、鉄道車両や自動車の騒音源のエネルギーは、航空機騒音の発生源のエネルギーとは比較にならないほど小さいはずである。したがって、鉄道線路や道路に面した側での騒音はかなり大きいとしても、同じ家で道路から離れた場所では格段に減少する(線路や道路に面しない側の部屋では騒音はさほど激しいものではなくなることは、日常の経験からも明らかである。)。ところが、航空機騒音の場合、騒音発生源のエネルギーの絶対値が大きいだけでなく、かなり離れた上空から来る騒音であるから、地上の位置の多少の違いはほとんど関係がないことになる理である(どの部屋にいても同じように騒音に悩まされることになる。)。言い換えれば、逃げ道のない騒音であり、防音等の効果的な対策をとりにくい騒音であるといってもよい。一審被告の主張は、比較の仕方を誤った反論というほかなく、採用の限りでない。」

9  原判決書七一頁一行目〈判タ七〇五号二二一頁四段目二行目〉の「いうのであるから、」を「いうのであり、一定限度までの心理的、情緒的被害、睡眠妨害、静穏な日常生活の営みに対する妨害(生活妨害)について各一審原告は精神的な損害を被っているとして、慰謝料という形で賠償を求めるというのである。したがって、」に、三行目〈六行目〉の「被害が」を「右にいう被害が」に、七行目〈一四行目〉の「必ずしも常に」を「各一審原告ごとに」にそれぞれ改め、八行目〈一六行目〉の「なぜならば、要は」の次に「本件では個々の一審原告の具体的な身体的被害(健康被害)が生じたことを前提として損害の賠償を求めているのではなく、前記のとおり一審原告らに共通する最低限度の被害を主張し、これに対する損害賠償を求めているのであるから、この観点からみて、」を加え、九行目〈一七・一八行目〉の「被害」を「最低限度の被害」に、一〇行目〈一九行目〉の「問題なのであって、」を「問題だからである。」に、一二行目〈二二行目〉の「ないからである」を「ない」にそれぞれ改める。

10  原判決書七七頁三行目〈判タ七〇五号二二二頁三段目二九行目〉、八七頁二行目〈判タ七〇五号二二四頁二段目二二行目〉、九六頁四行目〈判タ七〇五号二二五頁四段目二五行目〉、一二四頁六行目〈判タ七〇五号二三〇頁三段目二七行目〉の「原告本人尋問の結果」を「前掲原告本人尋問の結果(当審分を含む)」に改める。

11  原判決書一〇八頁五行目〈判タ七〇五号二二八頁一段目一二行目〉の「しかしながら」の次に「年平均の騒音発生回数でみると日中の騒音間隔は一時間二、三回程度とはいっても、日により、また時間帯によっては騒音発生回数が非常に多いことも珍しくないことは、先に判示し、後にも触れるとおりであるうえ、」を加える。

12  原判決書一三五頁末行〈判タ七〇五号二三二頁四段目一二行目〉の次に行を改めて次のとおり加える。

「 一審被告は、被害の認定に関して、一審原告ら提出にかかる調査研究の問題点等を指摘してその信用性ないし信頼性を争い、また、一審原告ら本人尋問における供述あるいは陳述書の信用性を争う。しかし、右に判示したところからも判るように、調査研究等の結果の認定は、別に一審原告らに身体的被害が現に生じていることまで認定しているのではない。航空機騒音によって一審原告らの主張するような具体的な身体的被害が生じているかどうかは必ずしも断定できないが、そのような被害が生じているとする意見も有力に主張されていて、その調査結果も決して無視しえない重みを持つことをいうのであり、常識的にみても、その結果は納得できるものであるというのである。一審被告の非難は、必ずしも的を射ないものというほかない。確かに、厳密にいえば、一審被告の批判する調査、研究の結果には一審被告が指摘するような問題点もないではない。しかし、こうした調査ないし研究には種々の制約が伴うことも止むを得ないところであり、より厳密な手法によることや、より正確な資料に基づくことが望ましいとはいえるにしても、あまりに厳格にこれを要求するのは無理があろう。問題がある点はある程度割引して受け取ることで満足せざるを得ない(本件または第一、二次訴訟の原告本人の供述は、その立場を考えれば、ある程度誇張があろうし、一審被告の批判する谷口調査も、現に同人が小松基地訴訟の原告となっていることからすると、そのままに信用するには問題があるにしても、同訴訟事件での本人尋問調書〔〈書証番号略〉〕に照らしても、その信用性を全面的に否定するほど不合理なものとも認められない。)。一審被告が批判する調査、研究の結果も、その結論自体は大筋において常識的な判断に合致することも考え併せると、一審被告の主張はいささか厳格に過ぎ、採用することができない(ちなみに、一審被告が信頼できるとする調査研究資料にも、また一審原告らが批判するような問題があることを指摘しておく。要するに、完全を期することはなかなか難しい。)。また、一審原告ら本人尋問における供述あるいは陳述書の記載には、ある程度誇張があることは考えられることであるが、この点は認定に当たって考慮に入れておけば足りることであって、一審原告ら本人の供述や陳述書の記載の信用性を否定する理由となるものではない。少なくとも、航空機の発する轟音やこれによる振動に驚くとか、低空を飛ぶ航空機に圧迫感を懐くとか、墜落しないかとの恐怖を覚えるとかいうのは、常識的にみてももっともなことであるし(ついでに触れておくが、一審被告は航空機の墜落の確率は極めて小さいとして、杞憂に過ぎないという。確率が小さいことは分かっている。分かっていても怖いと思うのが人の常というものであろう。ここで確率を持ち出すことが意味があるとは思えない。的外れの反論というほかない。)、いらいらして怒りたくなるというのもよく分かる。表現が酷しくなるのも止むを得ないところであって、すべて冷静に表現することまで求めるのは無理な注文である。

さらに、一審被告は、航空機騒音の特殊性を強調し、ピーク値は高くても持続時間はごく僅かな一過性のものであるし、横田飛行場の場合飛行回数もそう多くはなく一日の累積時間も短いから、難聴や耳鳴り等の被害があるとは考えられないし、それ以外の健康被害も考えられないという。また、会話妨害とか電話の聴取妨害、ラジオ、テレビの視聴妨害、思考の中断や読書妨害、作業妨害等の被害も同様さしたるものとは考えられないという。しかしながら、飛行騒音の少ない日はともかく、飛行騒音の多い日には一過性とはいえ飛行騒音による被害は決して軽度のものとはいえない。先に侵害の程度について認定したように、年間の一日平均の騒音発生回数からいえばそう多い回数ではないとはいえ、日に五〇回を越える日は珍しくなく、六時から二二時までの一六時間に割り振って考えるとして、日に六四回なら一時間に四回(一五分毎)ということになり、実際には前記測定記録によると、飛行騒音の回数の多い日にはある時間帯に偏って飛行騒音が発生している傾向が認められるから、例えばある日の一六時から一八時までの時間帯をみると二、三分毎に飛行騒音が発生するということも珍しいことではない。日に一〇〇回以上の日は多くはないが、そのような時は平均しても七、八分に一回という計算になり、これまた一定の時間帯に偏ると、「しじゅう飛んでいる」と表現されるのも決して大げさではない。このようにみてくると、一過性の騒音とはいえ、周辺住民にとっては頻繁な生活妨害と受け取るのももっともであり、現実に健康を害したどうかは別として、聴力障害を心配したり、耳鳴りがするとかストレスが溜まると訴えたりするのも無理はないと考えられる。会話妨害、電話妨害、ラジオテレビの視聴妨害も頻繁になろう。毎日毎日一日中こうしたことが続くというわけではなく、さしたる被害のない日もかなりあるとはいえ、被害の大きい日も珍しくないことを軽視してはならない。一審被告の主張は、年間の一日平均の飛行騒音の発生回数や発生回数が少ない日を重視しすぎるきらいがあり、採用することができない。」

三騒音対策についての当裁判所の判断は、次に付加するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する(原判決理由第八〔原判決書一三六頁〈判タ七〇五号二三二頁四段目一三行目〉から一五一頁〈判タ七〇五号二三五頁三段目一三行目〉まで〕)。

1  原判決書一三七頁七行目〈判タ七〇五号二三三頁一段目五行目〉の「〈書証番号略〉、」の次に「〈書証番号略〉」を、末行の「佐藤の証言」の次に「、当審証人菊田純治、同桜井壽の各証言」を、それぞれ加える。

2  原判決書一四一頁一行目〈判タ七〇五号二三三頁三段目一二行目〉の「昭和六二年度」を「平成三年三月三一日」に、「土地四一万八九五二」を「土地四二万〇三〇三」に、同二行目〈一四・一五行目〉の「一〇〇億四九四四万九〇〇〇円」を「一〇三億六五三七万六〇〇〇円」に、同四行目〈一八・一九行目〉末尾の「とおりである。」を「とおりである(その後の移転者はない。)。」にそれぞれ改める。

3  原判決書一四一頁六行目から七行目〈判タ七〇五号二三三頁三段目二二・二三行目〉にかけての「昭和六二年度までに、六億四九五四万三〇〇〇円」を「平成四年三月三一日までに八億一三〇〇万円余」に、七行目〈二三・二四行目〉の「五〇万三二一九平方メートル」を「約五二万平方メートル」に、八行目〈二五行目〉の「九万二三四五本」を「約九万八〇〇〇本」にそれぞれ改める。

4  原判決書一四四頁一行目の「昭和六二年度までに」から四行目の「前記のとおり、」〈判タ七〇五号二三四頁一段目二一ないし二七行目〉までを「平成四年三月三一日までに補助金助成を希望する約三万三〇〇〇世帯にはすべて新規工事が完了し、約六四〇〇世帯には追加工事も施工されている。これに要した補助金の総額は約七二〇億円に上る。先に述べたように、」に、七行目〈末行〉の「ここ数年」を「ここ一〇年ほど」に、八行目〈二段目一・二行目〉の「四〇〇〇戸」を、「二〇〇〇世帯から四〇〇〇世帯」に、九行目〈四行目〉の「昭和六二年度」を「当審口頭弁論終結の日」に、一〇行目〈六行目〉の「同表」を「本判決別紙損害金目録付表」にそれぞれ改める。

5  原判決書一四四頁末行〈判タ七〇五号二三四頁二段目一三行目〉の「昭和六二年度」を「平成四年三月三一日」に、同一四五頁二行目の「延五九万」から四行目の末尾〈一七行目から二〇行目〉までを「延べ約八〇万七四〇〇件、金額にして約四〇億円余となっている。」にそれぞれ改め、一一行目の「証人佐藤俊夫」の次に「、同桜井薫」を加える。

6  原判決書一四六頁一二行目〈判タ七〇五号二三四頁三段目二七行目〉の次に行を改めて次のとおり加える。

「 当審における検証の結果によると、小林宅及び野島宅での測定の結果では、いずれも防音室と非防音室の暗騒音の差はほとんどない。測定時の屋外の暗騒音が四五デシベル(A)前後とそう高くないことや、いずれの家も構造はしっかりしていて窓にはアルミサッシを使うなど比較的遮音性がよいと思われることなどを考えると、高騒音時の防音効果をこの結果だけで推し量ることは早計にすぎようし、小林宅の検証に際して一審被告が説明用に示した防音工事の仕様を示す見本の構造も併せて考えると、通常の非防音室に比較するとある程度の防音効果は期待できると判断することはできるものの、その程度は前記原審における検証の結果等を総合して、やはりおよそ一〇デシベル(A)前後のものとみるのが妥当なところと認められる。」

7  原判決書一五〇頁一〇行目〈判タ七〇五号二三五頁二段目一九行目〉の「かかわらず、」の次に「平成五年一一月一八日に、二二時から六時までの間緊急の必要がある場合を除いて一切の飛行活動が制限される旨の改正の合意がなされるまで(この改正の合意があったことはすでに公表され、一審被告から報告がなされたことにより、当裁判所に顕著である。)」を加える。

8  原判決書一五一頁八行目の「一日中」から九行目の「期待し難いこと」〈判タ七〇五号二三五頁三段目六ないし八行目〉までを「真夏に冷房装置を使う時や冬季は別として、窓を開けて新鮮な空気の中で日常生活をするのが自然な暮らしであり、一日中窓を閉め切った生活はいかにもうっとうしく、常時このような生活を余儀なくされること自体生活への妨害といえること」に改める。

四受忍限度についての当裁判所の判断は、次に付加するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する(原判決理由第九〔原判決書一五二頁〈判タ七〇五号二三五頁三段目一四行目〉から一七五頁〈二三九頁四段目一行目〉まで〕)。

1  原判決書一五二頁七行目〈判タ七〇五号二三五頁三段目二四・二五行目〉の「侵害行為を生ずる」を「違法な侵害行為となる」に改める。

2  原判決書一六〇頁六行目冒頭から八行目冒頭〈判タ七〇五号二三七頁一段目九ないし一三行目〉の「として、」までを「一審被告は、横田飛行場が我が国の安全を保障し平和を維持するうえで極めて高度の公共性を有し、その公共性ないし公益上の必要性は民間空港の公共性を上回るものと言うべきであるから、一審原告らが受けているという被害の程度を考えると、米軍が横田飛行場を使用することによって生ずる航空機騒音による侵害があるとしても、これはいまだ周辺住民の受忍限度内というべきであって、一審原告らに対する違法な侵害行為には当たらないと主張する。

しかしながら、民間空港や幹線鉄道、幹線道路が国民の日常生活において極めて重要な役割を果たしていることもまた間違いなく、その公共性ないし公益上の必要性もまた極めて大きいことはいうまでもない。国防上の必要性による公共性との間でどちらが重要であるかとか、あるいはその公共性の程度の違いを論ずること自体適当とは考えられず、国防に関するからといって特別に高い公共性を主張し、違法性を阻却する事由となるとすることが相当であるとは考え難い。」に改め、一六一頁六行目〈判タ七〇五号二三七頁二段目二行目〉の末尾に「さらに、一審被告は、大阪空港騒音訴訟で問題とされた当時の騒音発生回数が一日一七六回ないし二〇二回にも達していたことと比較して、横田飛行場の騒音発生回数はそれほどにひどいものでないし、飛行場の規模からしても、横田飛行場は大阪空港より広大であるから、騒音の影響も緩和されるはずであるなどと主張する。しかし、大阪空港の騒音発生回数が異常に多いのであって、これよりはるかに少ないからといって横田飛行場の騒音発生回数をもって違法な侵害に当たらないとする根拠とすることには賛同できないし、大阪空港の場合と違って、先に認定したように、深夜早朝にわたる騒音も少なくないことからして(ここでは、別紙時間帯別騒音発生状況一覧表の二一時から二二時までの回数も参照されるべきである。)、同一に論ずることはできないだけでなく、先に認定した騒音の発生状況は、現に空港周辺で測定された数値に基づくものであるから、一審被告の主張は採用することができない。」を加え、一〇行目〈判タ七〇五号二三七頁二段目九行目〉の次に行を改めて次のとおり加える。

「 また、一審原告らは、ソビエト連邦崩壊を始めとする最近の国際情勢の変化や、これに伴って米国が世界各地の軍事基地の縮小を実施している状況からすると、横田飛行場の米軍基地としての重要性も減少しているというべきであって、その公共性も減じていると主張する。しかしながら、近年における国際情勢の変化が極めて激しいものであることはそのとおりであり、また米国が世界各国に配備している軍事基地を縮小している事実があるとしても、そのことが、我が国の安全を保障するために横田飛行場が基地として米軍の使用に提供されているという、現に国防上果たしている役割の重要性を減ずる理由となるとは考え難い。一審原告らの主張もまた、採用することができない。」

3  原判決書一六三頁一行目〈判タ七〇五号二三七頁一二段目八行目〉の末尾に「ちなみに、一審被告は、一方では横田飛行場周辺の騒音はさしたるものではないことを強調しているのであって、他方で地域性の理論をいうのは、主張自体に無理があるともいえる。」を加える。

4  原判決書一七〇頁一〇行目〈判タ七〇五号二三八頁四段目二六・七行目〉の「主張するが、」の次に「先に判示したとおり、一審原告らの暴露されている騒音が決して「さしたるものではない」というようなものではないうえ、」を加える。

5  原判決書一七五頁末行〈判タ七〇五号二三九頁四段目一行目〉の次に行を改めて次のとおり加える。

「5 一審被告は、一審原告らが毎日コンター図に示されているとおりの騒音に暴露されているわけではないうえ、実際の騒音状況は必ずしもコンター図のとおりではなく、これよりも低い地域もあるし、民間空港でない横田飛行場の航空機騒音のW値の計算方法の特殊性からいっても、コンター図は各地点の騒音の実際を示すに適したものではない(実際にはあり得ない飛行状況を想定して作成されている。)ことを強調する。確かに、先に認定したとおり、横田飛行場周辺の飛行騒音は日によって大きく違っていて、年平均でみる一日の回数よりずっと少ない日もかなりあることは事実である。そのような日のW値がコンター図に示されたW値より低いことは容易に推認することができる。しかし、これもすでに判示したように、年平均でみるよりも多い飛行騒音が発生している日もかなりの数に上ること、このような日の騒音のW値がコンター図に示された地域毎のW値を下回るとの一審被告の反証が採用できないことを考慮すると、一審被告の主張はそのままには採用することができない。民間空港でない横田飛行場の場合の航空機騒音のW値の計算が特殊な方法によっているとの点についても、そのような方法によることが、民間空港に比べて特殊な飛行状況となる軍用飛行場の「うるささ」を表すのに適切であるとの考慮からなされたものであること(このこと自体は一審被告も否定するわけではないし、証人後藤の証言によっても、こうした考慮に基づいて採用された計算方法であって、「うるささ」を表すのに適切なものと認められる。)からすると、肯認するに足りる反論とは認められない。また、一審被告は、先に判断した測定地点の騒音やコンター図に示された騒音値は屋外のものであるところ、一審原告らの生活のほとんどは屋内のものであり、家屋自体の遮音性を考えると、一審原告らの受ける騒音もかなり軽減されるはずであるという。確かに、先に述べたとおり、環境基準にも屋内でのW値が示されている。しかし、これは環境基準に示された基準値の達成に長期間を要する場合の中間的な改善目標の一つとして示されたものであり、かつ、この改善目標にも、まず屋外値の改善を挙げていることからすると、そこに示されている屋内値は、屋外値の改善が目標に達しない場合の次善の目標と理解すべきである。人の生活は、屋内での時間が長いとはいっても、屋外での時間も少なくないし、屋内での生活でも、先に述べたように、真夏に冷房装置を使う時や冬季は別として、窓を開けて生活するのが自然であることも考えると、受忍限度を判断するに当たって屋内値をそれほど重視するのは相当ではない(屋外の音は、騒音ばかりではない。小鳥のさえずりや虫の音は耳に快い。防音室では、騒音が軽減される代わりに自然の快い音も遮断されてしまう。つまり、自然な生活とは程遠く、大都市の事務室でもない自宅で一日中防音室で生活する不快感を考えてみるがよい。)。環境基準において、屋外の騒音値に基づいて基準を定めているのも、屋外値で基準が達成されれば、当然に屋内の騒音はこれより軽減されることも考慮されたうえでのことであると理解すべきである。一審被告の前記主張はこの点を軽視するものであって、採用の限りでない。」

五一審被告の責任についての当裁判所の判断は、原判決書一七七頁三行目〈判タ七〇五号二三九頁四段目三二行目〉の「証拠はないから」を「証拠はないばかりでなく、先に触れたように、平成五年一一月一八日には遅まきながら日米合同委員会の合意の改正がなされたという事実によっても、一審被告が努力さえすれば回避措置も十分可能であったといえるから」に改めるほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する(原判決理由第一〇〔原判決書一七六頁〈判タ七〇五号二三九頁四段目二行目〉から一七七頁まで〈三一行目〉まで〕)。

六本件の慰謝料相当額及び弁護士費用等についての当裁判所の判断は、次のとおり付加するほかは原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する(原判決理由第一一の一から五まで〔原判決書一七八頁〈判タ七〇五号二三九頁四段目二三行目〉から一八三頁一〇行目〈三一行目〉まで〕)。

1  原判決書一七九頁七行目〈判タ七〇五号二四〇頁一段目三二・三行目〉の「資料とすることとする。」を「資料とし、旧コンター図は横田飛行場に至近の地域にある地域を示すものとして、慰謝料額の基準を修正するに当たって考慮するに止める。」に改める。

2  原判決書一七九頁一一行目〈判タ七〇五号二四〇頁二段目六行目〉から一八〇頁九行目〈二六行目〉までをつぎのとおり改める。

「三1  本件に現れた侵害行為の態様と程度、一審原告らの受ける被害の程度その他の諸事情(なお、第一、二次訴訟との時点の違いによる物価の変動を考慮するほか、右訴訟の口頭弁論終結の日以降も横田飛行場の航空機の飛行回数にこれといった変わりはないことは証拠上明らかにされているのに、一審被告は、第一、二次訴訟の最高裁の判断が示された後も、防音工事等の周辺対策が進捗していること等を強調するのみで(右の控訴審判決でも、防音工事自体は室内における騒音の被害を軽減する効果はあるが、それだけではなお侵害行為の違法性を阻却する事由とはならず、慰謝料額の判断に当たって考慮されるに止まるものとされ、その他の周辺対策も違法性阻却事由に当たらないとされていて、この判断は最高裁判決によっても是認されているところである。)、先に述べた日米合同委員会の合意の改正が実現するまで、騒音源の軽減のための努力をした形跡はないなどの事情も考慮されてしかるべきである。)を総合考慮すれば、当裁判所は、一か月当たりの慰謝料額は次のとおりとするのが相当であると判断する。先に判断したとおり、地域類型ごとに受忍限度が異なるものとし、地域類型Ⅱの地域については、受忍限度をW値八〇としたものであるところ、この騒音のうるささ自体かなり程度が高いし、類型Ⅱの地域は類型Ⅰの地域よりも一般に周囲の騒音が大きいとはいっても、その上にさらに別の大きな騒音が加わることによって受ける被害自体に地域類型による差があるとするのは相当でないと考えられるから、W値八〇以上の区域について地域類型により慰謝料額に差を設けることはせず、同じ慰謝料額とする。

W値七五以上八〇未満(類型Ⅰの地域のみ) 三〇〇〇円

W値八〇以上八五未満(類型Ⅰ、Ⅱの地域とも) 六〇〇〇円

W値八五以上九〇未満(類型Ⅰ、Ⅱの地域とも) 九〇〇〇円

W値九〇以上 (類型Ⅰ、Ⅱの地域とも) 一万二〇〇〇円

なお、W値九〇以上の地域で旧コンター図によるW値九五の地域内の一審原告ら(一審原告番号一三八ないし一四〇、二五六ないし二六〇の八名)については、横田飛行場に至近の位置に居住していて、他の一審原告らに較べてより激しい騒音に暴露されていることは間違いないと考えられるうえ、併せて地上音による騒音被害も受けていると認められるので、このことを考慮して、慰謝料額は一万七〇〇〇円とする。」

3 原判決書一八〇頁末行〈判タ七〇五号二四〇頁二段目三四・五行目〉の「一五パーセント」を「二〇パーセント」に、一八一頁二行目〈三段目二行目〉の「原告が」を「一審原告に関しては、」に、六行目の「(ただし、」から一一行目〈一〇行目から二〇行目〉末尾までを「、慰謝料を減額する。その率は、防音室一室につき一〇パーセントとする。ただし、危険への接近による減額も適用される者については、これにより減額した額をまず算出し、その額から防音工事による減額の計算を行うものとする。」にそれぞれ改める。

4  原判決書一八二頁八行目〈判タ七〇五号二四〇頁四段目三行目〉の「本件訴訟と無関係である。」を「本件訴訟の一審原告らの弁護士報酬契約を直接証するものではない。しかし、本件訴訟も同種の訴訟であり、第一、二次訴訟の原告らの家族が多数含まれていること、及び弁論の全趣旨により、同様の報酬契約(損害賠償請求額の一五パーセント)があると推認することができる。」に、九行目から一〇行目〈六・七行目〉にかけての「扱うこととする。」を「扱うこととする(本件においては、弁護士費用は、認容される慰謝料損害金の元金だけでなく、これに対する遅延損害金を含めた額の一〇パーセントとするのが相当であり、そのためには弁護士費用の計算に当たっても慰謝料損害金と同じ時点から遅延損害金を計算するのが合理的であると考えられる。)。」にそれぞれ改める。

七当裁判所も一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎の損害金請求はいずれも理由がなく、棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する(原判決理由第一一の六〈判タ七〇五号二四〇頁四段目三四行目〉〔原判決書一八三頁一二行目〈二四〇頁四段目三四行目〉から一八四頁末行〈二四一頁一段目二七行目〉まで。〕)。

八電気料相当の損害金請求について

電気料相当の損害金の支払いを請求する一審原告らは、防音工事によって支払を余儀なくされた冷房に要する電気料が横田飛行場の使用に伴って発生する航空機騒音への暴露と相当因果関係のある損害に当たると主張する。

右の電気料は、住宅防音工事の助成を受けた者が、夏期の間、横田飛行場の使用によって発生する航空機騒音を緩和するため、窓を閉め切った状態にした際に生ずる室温の上昇を防ぐのに冷房装置を使うのに要する費用であるから、これが航空機騒音への暴露と因果関係がないとはいえないであろう。しかしながら、夏期に冷房装置を利用することによって便益を受ける面もあること、ここ十数年来冷房装置を使って快適な生活をするというのは、特に騒音の発生とは関係なく一般家庭でもごく普通にみられるところであることを考えると、冷房に要する電気料が航空機騒音への暴露と相当因果関係のある損害とまでは認められない。また、生活環境整備法の規定によっても一審被告が防音設備の維持管理費用まで負担すべきものであると解することはできない(もっとも、一審被告も生活保護世帯については防音設備の使用に必要な電気料を負担していることを認めており、政策上の配慮による負担は可能であるから、一審被告が騒音被害の軽減にいっそう努力するために、その他の者についても防音設備の設置のための費用を助成するだけではなくその維持管理に要する費用の一部を負担することも検討されてしかるべきであるが、そのことと法律上これを負担しなければならないかは、別である。)。一審原告らの請求は理由がなく、棄却を免れない(前掲最高裁判所判決参照。)。しかしながら、一審被告は、原判決中原審口頭弁論終結の日の翌日から当審口頭弁論終結の日までの電気料相当損害金の請求にかかる訴えを却下した部分については不服を申し立てていないから、ここでも、この期間につき同損害金の請求を維持する一審原告らの請求につき、原判決を取り消して請求棄却の判決をすることは不利益変更禁止の原則に反することになる。よって、この点についても、この期間の同損害金の支払を求める一審原告らの控訴を棄却するに止める。

第四将来の損害賠償請求について

一審原告らの慰謝料及び弁護士費用、電気料相当の損害金請求のうち、当審の口頭弁論終結の日の翌日である平成六年一月一三日以降に生ずるものの支払を求める部分は、将来の給付の訴えであるところ、当裁判所もこの部分の訴えは不適法であって却下を免れないものと判断する。その理由は、次に付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する(原判決理由第一三〔原判決書一八八頁〈判タ七〇五号二四一頁三段目六行目〉から一九〇頁〈二四三頁一段目二行目〉まで〕)。

一原判決書一八八頁三行目から四行目〈判タ七〇五号二四一頁三段目一一行目〉にかけての「昭和六三年六月二三日」を「平成六年一月一三日」に、一八九頁一二行目〈四段目一七・八行目〉の「昭和六三年六月二三日」を「平成六年一月一二日」にそれぞれ改める。

二原判決書一八九頁九行目〈判タ七〇五号二四一頁四段目一一行目〉の「要求されるところ、」の次に「すでに述べたように、平成五年一一月一八日に日米合同委員会の合意の改正があり、その際日米両政府の間で横田飛行場周辺の騒音軽減に努力する旨の約束がなされたことからして、今後その成果として侵害の程度、態様にも変化が生ずることが期待されるほか、」を加える。

第五結論

以上のとおりであって、一審原告ら(ただし、一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎の請求を除く。)の金銭の支払いを求める請求中、本件口頭弁論終結の日までに生じた慰謝料及び弁護士費用の支払いを求める請求は、別紙損害金目録に記載の限度で一部理由があり、遅延損害金の支払請求と併せて認容すべきものであるから、その余の部分は理由がなく棄却すべきである。また、一審原告福本道夫の慰謝料及び弁護士費用の支払いを求める請求中本件口頭弁論終結の日までに生じた損害金の支払いを求める請求、同松本スエ及び同松本件治郎の同請求は全部理由がなく棄却すべきである。次に、一審原告ら(別紙転居・死亡一審原告目録一記載の各一審原告及び別紙転居・死亡一審原告目録二記載の一審原告のうち、「騒音不到達日」を請求の最終期とする者以外の一審原告らを除く。)の金銭の支払請求(電気料金相当の損害金を請求する一審原告らの請求を含む。)のうち本件口頭弁論終結後に生ずる部分の請求は不適法な訴えとして却下すべきものである。さらに、飛行等差止請求及び原審口頭弁論終結の日の翌日から当審口頭弁論終結の日までの期間につき電気料相当損害金の支払いを求める一審原告らの請求は、いずれも本来は理由がないものとして棄却を免れないものであると判断する。

したがって、一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎を除く一審原告らのうち、原審口頭弁論終結の日までの損害賠償請求につき、いずれかの時点で原審の認容額を超える額の請求が認容されることとなる者、及び原審口頭弁論終結の日の翌日以降の損害賠償請求が認容されることとなる者の本件訴訟はいずれもその限度で一部理由があることになり(原判決において原審口頭弁論終結の日以前に死亡し、または騒音地域から転出したと認定された者については、当裁判所は死亡または転出の日も損害を認めることにより終期が一日延びる結果、少なくともその限度で控訴は理由があることになり、また、当裁判所が原審口頭弁論終結の日より前に騒音地域から転出したことを認定した者(一審原告小川清澄〔番号一〇四〕、同栗原勝〔同三二九〕、同大滝かつ〔同二五八〕)についても、転出前の損害額が原審の認定より多い結果、その限度で控訴は理由があることになる。結局一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎を除く一審原告ら全員につき、本件控訴は一部理由があることとなる。)、その余の本件控訴はいずれも理由がないこととなる。

また、一審原告らのうち原審口頭弁論終結の日までの当審の請求認容額がいずれかの時点で原審よりも低額となる者にかかる一審被告の本件控訴は、その限度で一部理由があることになるが、その余の部分は理由がない。

よって、一部、一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎を除く一審原告らの控訴に基づき、一部一審被告の控訴に基づき、原判決を主文第一項のとおり変更することとする(なお、当裁判所の判断の結論を判りやすくする趣旨で、原判決の一部を変更する旨の主文を用いることとしたので、一審原告のうち当裁判所の認容額が原判決の認容額を下回ることのない各一審原告についても、一審被告の本件控訴を棄却する旨の明示はしない。)。

次に、一審原告らのうち飛行等の差止めを求める者の差止請求及び一審原告らのうち電気料相当損害金の支払いを求める者の昭和六三年六月二四日から平成六年一月一二日までの請求は、すでに判示した理由により、本来は棄却すべきであるが、これらの点については一審被告の不服申立てがなく、原判決を一審原告らの不利益に変更することは許されないから、当該一審原告らの控訴を棄却するに止める(なお、当審でも差止請求を維持している一審原告以外の一審原告らについては、差止請求に関して控訴を取り下げ、また、一審原告濱野マス〔番号四三〕、同山田トキ〔同五六〕、同間中仁三〔同二三七〕、同金沢貫治〔同三六〇〕、同小野関五郎〔同三六七〕、同山木宏〔同四三六〕は、電気料相当損害金請求につき、昭和六三年六月一日以降の支払い請求の訴えを取り下げたので、これらの点については、当裁判所は判断しない。控訴取り下げ部分については原判決が確定し、訴え取り下げ部分については、原判決はその効力を失った。)。

一審原告らのうち当審口頭弁論終結の日の翌日以降の損害賠償を請求する者の同日以降の損害金の請求にかかる部分の訴えを却下した原判決は相当であり、一審原告らの控訴は理由がなく棄却を免れない。

一審原告福本道夫、同松本スエ及び同松本件治郎の損害金請求についての原判決の判断は相当であって、本件控訴は理由がなく棄却を免れない。一審原告福本道夫の差止め請求についても控訴棄却に止めるべきことは、その余の一審原告らについてと同様である。

念のため仮執行宣言について触れておく。横田飛行場の航空機騒音による損害賠償請求に関しては、すでに述べたように、いわゆる第一、二次訴訟の最高裁判決がなされており、本件事件の争点もほとんどは右第一、二次訴訟と共通するものである。当裁判所の判断も、この最高裁の判断に従いつつ、新たに必要となる事実認定を加えたものである。したがって、本判決が一審原告らの損害金の支払請求を認容した部分については、仮執行宣言を付するのが相当であり、免脱宣言を付するのは相当でない。ただ、仮執行のために、例えば郵便局等国民の生活に密接な関係のある国の施設の現金が執行の対象となると、一般国民に迷惑をかけるこ

損害金目録

番号

一審原告 氏名

慰謝料

弁護士費用

合計額

対象期間

1

2

3

4

角谷信行

角谷健志

角谷和子

角谷ツル

4800

3840

480

380

5280

4220

~57.11.20

57.11.21~

5

6

7

浅井宣也

浅井亮士

浅井やす江

7200

5760

720

570

7920

6330

~54.12.15

54.12.16~

8

浅井うめ子

9000

7200

900

720

9900

7920

~54.12.15

54.12.16~

9

松井うめ子

8100

810

8910

10

松井昭光

6480

640

7120

11

12

福本幸江

福本義和

8640

7680

6720

860

760

670

9500

8440

7390

~55.11.15

55.11.16~58.3.31

58.4.1~

14

15

森七郎

森縫子

6000

600

6600

16

森修一

7200

4800

720

480

7920

5280

~55.11.16

55.11.17~

17

森美津子

7200

4800

720

480

7920

5280

~55.11.14

55.11.15~

18

木下林平

6000

600

6600

19

木下弥生

4800

480

5280

56.5.29~

20

21

遠藤真弓

遠藤智子

6480

5040

640

500

7120

5540

~57.11.30

57.12.1~2.6.2

22

吉野梅太郎

(承継人 吉野久子)

8100

810

8910

~58.6.12

23

吉野久子

8100

810

8910

~2.2.22

24

25

海野房次

海野コウ

9000

900

9900

26

森山孝子

8100

810

8910

27

石川妙子

(旧姓 峰)

10800

9600

1080

960

11880

10560

~56.12.21

56.12.22~62.2.22

28

29

峰清

峰ヨリコ

10800

9600

1080

960

11880

10560

~56.12.21

56.12.22~

30

31

32

33

戸塚さやか

戸塚忍

戸塚誠一

戸塚幸子

4800

480

5280

34

35

戸塚芳哉

戸塚きよ

6000

600

6600

36

山村明子

6480

5760

640

570

7120

6330

~56.12.21

56.12.22~

37

永島玉子

(旧姓 山村)

8100

7200

5400

6000

810

720

540

600

8910

7920

5940

6600

~56.12.21

56.12.22~62.2.1

62.2.2~62.4.9

62.4.10~63.7.29

38

山村行弘

2400

6480

5760

5760

240

640

570

570

2640

7120

6330

6330

56.2.1~56.7.31

56.8.1~56.12.21

56.12.22~59.3.31

62.12.1~

39

山村君子

8100

7200

810

720

8910

7920

~56.12.21

56.12.22~

40

村田美由喜

9000

900

9900

~58.3.13

41

志茂裕美

7200

720

7920

~58.3.13

42

志茂弘

9000

900

9900

~58.3.13

以下省略

この表の読み方と各一審原告の損害賠償金額の計算について

1  慰謝料、弁護士費用(10円未満は切捨)及び合計額欄の数字は、いずれも一ヶ月当たりの額であり、合計額欄の額が各一審原告ごとの一か月当たりの請求認容額を示す。一審原告欄で同じ枠内にある者は、いずれも、その右側に記載された合計額につき、対象期間欄に示す期間の損害賠償請求(元本額)を認容されたことを表すものである。対象期間の始期及び終期を明示していないものは、始期はすべて昭和54年7月21日であり、終期はすべて平成6年1月12日である(判決理由中、消滅時効及び将来の請求についての判断参照)。

2  この表の額を算出するに当たっては、判決理由中で示した一審原告らの居住地域ごとの慰謝料の基本額に各一審原告ごとの減額事由を考慮したものであるが、一審原告ごとの事由の詳細は、付表に記載のとおりである。なお、すでに騒音地域内に居住する一審原告について危険への接近による減額を考慮するについては、より騒音の高い地域に移転したとき、又はいったん騒音地域外に転出して、再度騒音地域に移動した場合に限定すべきものとすべきであるとの判断によった。また、騒音地域内で移転した場合には、移転日につき重複した損害賠償請求を認めることはできないから、転入の日の前日までは旧住居に居住したものとするが、これを除いては、騒音地域外への転出、死亡、騒音地域への転入の日はいずれも一日として計算することとする。

3  この表に基づく具体的な計算例は、次ページに示す計算例による(なお、表の読み方については、原判決の示す計算例も参照のこと。ただし、最終期が平成6年1月12日であることに注意する。)。

計算例

1  一審原告角谷信行、角谷健志、角谷和子、角谷ツル(番号1ないし4)のそれぞれの場合を例にとって説明する。

対象期間欄に始期及び終期をいずれも明示していないから、始期は昭和54年7月21日、終期は平成6年1月12日となる。

まず、始期である昭和54年7月21日から同57年11月20日までの損害金請求の認容総額(元金)は、合計額欄の5280円が1か月当たりの金額を示しているから、次の計算により21万1314円となる。

昭和54年7月分 5280(円)×(11(日数)÷31(7月の日数))=1874(円)(円未満四捨五入。以下同じ)

昭和54年8月分から57年10月分 5280(円)×39(月数)=205920(円)

昭和57年11月分 5280(円)×(20(日数)÷30(11月の日数))=3520(円)

1874円+20万5920円+3520円=21万1314円

昭和57年11月21日から終期である平成6年1月12日までの損害金請求の認容総額(元金)は、合計額欄の4220円が1か月当たりの金額を示しているから、同様の計算により、56万4301円となる。

昭和57年11月分 4220×(10÷30)=1407

昭和57年12月から平成5年12月分 4220×133=561260

平成6年1月分 4220×(12÷31)=1634

1407円+56万1260円+1634円=56万4301円

以上の計算により、損害金認容総額(元金)は、

21万1314円+56万4301円=77万5615円となる。

遅延損害金の計算は、最も早い起算点である昭和57年10月21日の前日である同月20日までの認容額(元金)をまず計算し、昭和57年10月21日から、それ以降の分は、各月毎の金額(元金)にその翌月の1日から、それぞれ支払日までの年5分の割合による金額を計算することとなる(この目録の合計額欄には1か月当たりの金額を示しているから、昭和57年10月及び最終期となる月並びに月の途中で認容額が変わる月については日割り計算を要するが、これらの月を除いては、合計額欄の金額を基に、そのまま支払日までの日数を計算して算出すれば足りる。)。

2  一審原告木下弥生(番号19)の場合は、始期が昭和56年5月29日となることに注意する他は、上記の説明と同様である。

3  一審原告吉野梅太郎(番号22)の場合は、終期が昭和58年6月12日となることに注意する他は、上記の説明と同様である。

4  一審原告小林夕美子(番号68)の場合は、認容された期間が連続していないため、その計算に注意する他は、上記の説明と同様である。

とになるので、このような事態を避けるために国が執行の対象となる現金を準備する期間の猶予を与えるため、仮執行につき執行開始の時期を定めるのが相当である(判決をする裁判所は、仮執行宣言を付するかどうかにつき相当の範囲で裁量の権限を有するのであるから、このような期間の猶予を認めて仮執行宣言を付することももちろん許されると解される。)。

(裁判長裁判官上谷清 裁判官滿田明彦 裁判官曽我大三郎)

別紙承継関係一覧表〈省略〉

別紙転居・死亡一審原告目録一、二〈省略〉

別紙電気料相当損害請求債権目録〈省略〉

別紙一審原告ら移動一覧表(一審原告ら主張分)〈省略〉

別紙時間帯別騒音発生状況一覧表〈省略〉

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